中小企業診断士の「ハチでもわかる企業と財務」

ていねいにわかりやすく、応用のきく知識をハチと一緒に学びましょう。

貸借対照表の分析 その①

貸借対照表の大まかな意味がわかったところで、さっそく簡単な分析をしてみて、更に慣れていきましょう。

細かい数字が無く全体を見やすくしているので、初学者の方もゆっくりみていってね。

貸借対照表の比較と分析 その1

より良好な企業の貸借対照表はどちらでしょうか? 

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数字の横にある「▲」はマイナスを表しています。また、財務諸表の単位は数字で表した時のカンマの位置で、千円単位、百万円単位で記載されることが多いです、慣れていきましょう。

 

こちらは、資産・負債・純資産の意味を理解できていれば簡単ですね。

正解は①です。

純資産は貸方(右側)に記載するのがルールなのでマイナス表示となっていますが、資産と負債の大きさを合わせると下図のようになります。

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こうしてみると②は資産より負債の金額が大きいことがわかりやすく、また①は資産が負債より大きい②より優れていることが明確です。このような、①の状態を『資産超過』、②の状態を『債務超過』といいます。

  • 資産超過:資産が負債よりも大きく、純資産がプラスの状態
  • 債務超過:資産が負債よりも小さく、純資産がマイナスの状態

 

貸借対照表の比較と分析 その2

より良好な企業の貸借対照表はどちらでしょうか? 

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純資産は両方とも同じですが、流動(資産・負債)と固定(資産・負債)のバランスがそれぞれ違いますね。流動(資産・負債)と固定(資産・負債)の意味を思い出してみます。

正解は①です。何となく①の方がよさそうだと感じられると思いますが、理由まで考えてみましょう。

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企業経営は複雑であるため一社の財務諸表を読むだけでは絶対的な評価が難しく、財務分析では業界平均などの数値も参考にします。しかしいくつかの指標では絶対値ででその企業の良し悪しを判定できるため、とっかかりとしては悪くないでしょう。

企業の安全性を判定する指標

貸借対照表の数値だけで、その企業における短期的・長期的な財務の安全性を測定することができます。この指標のいいところは、参考数値が示されているため、一社の貸借対照表があれば分析できることです。

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 総資本のうち、返済が必要な資本(他人資本=負債)と、返済が必要ない自分の資本(自己資本=純資産)の占める割合によって長期的な財務安全性を見ることができます。当然、安全性の観点からは自己資本が大きい方が望ましいため、自己資本比率は高い方が良好な水準といえます。無借金の優良企業であれば50%以上の水準を有する企業もみられます。

 正常営業循環を構成する科目または短期的(1年以内)に現金化されるものである流動資産と、短期的に現金の支払や費用化される流動資産のバランスに着目した、短期支払能力を測定する考え方。もちろん、流動資産の方が大きい方がいいため、流動比率は高い方が良好な数値といえます。なお、流動比率の理想値は200%流動資産は流動負債の2倍ある状態)が理想的な財政状態と言われており、企業同士を比較しなくても評価が可能です。

当座資産 = 流動資産 - 棚卸資産

流動比率で使用する流動資産の内訳に注目すると、「棚卸資産」は実際に商品や製品の買い手が購入するまでは現金化されないというという状況であるのに対して、「受取手形」や「売掛金」は既に現金となることが確定している(商品やサービスの提供は完了しており対価となる代金を受領する権利が既に発生している)ことを考慮すると、流動資産の中でも、現金回収の可能性の高さや早さに差があることがわかると思います。

当座比率では、流動資産から棚卸資産を除いた当座資産を使用することで、より忠実に短期支払能力(流動負債を当座資産でまかなう)を測定することができる指標です。なお、当座比率の理想値は100%(当座資産と流動負債は同額)です。

上記2つの指標は業種によって大きく違いがありますので、業界平均と比べるのもいいでしょう。

  • 固定比率 = 固定資産 / 自己資本 × 100 (%)

 財務状態のうち、固定資産と自己資本に着目し、会社の固定資産の調達源泉が、返済不要である自己資金でどれほど賄われているかをみる指標で、長期的な財務安全性を判断できます。

貸借対照表における資産は調達した資本の運用状態を示していました。中でも固定資産は、資金が長期的に拘束される上に現金の回収に時間を要するため、返済の必要な他人資本による調達よりも自己資金による調達の方が望ましいという考え方です。理想地は100%以下ですが、クリアするのは大変でしょう。

資金の運用形態である固定資産ほど、資本の調達源泉のうち自己資本固定負債(長期負債)でどれほど賄えているか、を測定するための指標です。

固定比率が100%を下回るように固定資産のすべてを自己資本で調達するのはとても難しいので、自己資本固定負債で調達してあればよい、という固定比率を緩和した考え方です。固定負債は返済が必要となる資本の調達源泉ですが返済が長期にわたるため、固定資産と対応させることはそれほどおかしくありません。

④固定比率が100%以下であっても、⑤固定長期適合率が100%以下であればまずまずと考えてよいでしょう。

 

貸借対照表の比較と分析 その2 解答

それでは、先ほどの問題について、上記5つの指標を使ってそれぞれの貸借対照表を分析してみましょう。(流動資産の内訳を示しておらず当座資産の金額が不明であるため、当座比率は算出できません。

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 すると指標の数値は以上のような結果になります。長期的な財務安全性を判断する1・4・5、短期支払能力を判断する1、すべて企業①の貸借対照表の方が優れていることが、根拠とともにわかりましたね。

まとめ

絶対値で企業を評価できる指標もありますので、ぜひ頭に入れておいてさっと確認できるといいですね。

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細かく計算をしなくても、これなら大まかに企業分析ができそうです。

以上の指標は貸借対照表のみを使用して分析するものですし、この指標だけで企業を評価できるほど企業分析は単純ではありません。しかし、このような基本的な指標を足掛かりとして資産と負債のバランスなどの考え方を身につけていくことが大切です。応用の利く実力を備えていきましょう!