中小企業診断士の「ハチでもわかる企業と財務」

ていねいにわかりやすく、応用のきく知識をハチと一緒に学びましょう。

損益計算書の分析 その①

前記事で損益計算書の仕組みについて簡単に理解したところで、さっそく分析編に入りましょう。損益計算書の基本について不安のある方は過去記事をご参照ください。

 

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各段階における利益の意味

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過去の記事において、各段階の利益についてご説明をしました。損益計算書の分析においては、決算書を3期分ほど用意して時系列に沿って比較することが重要ですが、まずは1期分の損益計算書の分析から始めましょう

利益の図示

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 先ほど例示した損益計算書を横向きのグラフにして図示しました。差額としての利益の推移をイメージでき、どの企業活動段階の費用が利益水準に大きく影響を与えているか、視覚的にわかりやすいと思います。

 この決算書は、経営成績良好な企業における損益計算書の基本パターンですので、是非とも念頭に置いてください。また、企業分析のポイントとしては、最終的な利益や損失の数値を鵜呑みにしないようにすることです。

事例1

損益計算書は下から読んでみてください。

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当期純利益は▲1(マイナス1)ですので、当期純「損失」です。「赤字着地」とも言います。1億円も売上高があるのですから▲100万円程度の赤字は収支トントンともいえますが、大抵の企業は月次の決算書である「試算表」を作成して財務状況を管理把握しているので、ちょっとしたミスで純損失になってしまうことは考えにくいでしょう。

②特別損失をみると、46百万円の損失が計上されています。一過性の費用が多額に計上されているので「?」と気づく必要があります。

③経常利益を確認すると、45百万円の黒字です。営業外費用である利息が5百万円も発生しているにもかかわらず経常利益は十分で、企業の正常収益力は良好です。

④営業利益をみると、販管費などの固定費を差し引いた状態で充分に利益を確保できています。営業利益を生み出す営業活動は良好であることがわかります。

(⑤売上総利益は単年度で判断しにくく、業界平均や複数年度との比較により判断します)

事例1 図示

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 最終的な利益である当期純利益が赤字(当期純損失)であっても、企業の営業成績はじめ収益力は問題ないという例として、なるべく税金の支払の回避を目指す、節税対策に熱心な企業の損益計算書を挙げました

 経常利益まで充分に確保できていますが、一過性の節税対策の特別損失によって、利益を圧縮しているというイメージがつかめますでしょうか。このように、最終的な利益or損失の水準をそのまま受け取ることなく、各企業活動段階の利益を分析する必要があります。

事例2

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①純損益は赤字ですが、ここから掘り下げていきます。

②営業外費用が0なので特段の利息負担はありませんが、経常利益がマイナスです。

③営業利益もマイナスです。営業段階以下ではほとんど経費の動きがありません。

 ここで営業損益から純損益まですべて赤字だからといって経営成績が悪いと判断してはいけません。「販管費(販売費及び一般管理費)」は様々な経費の集合体ですので、明細によって内訳を確認することにより、営業損失をもたらす原因を把握する必要があります。

事例2 図示

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 本事例は、節税のために個人事業主から法人成りした企業など、比較的に小規模な企業を例に挙げました。

 販売費及び一般管理費の負担が大きく営業損失がでているため、一見すると経営状態がよくない企業にも見えます。しかしながら、販管費の内容を掘り下げていくと、役員報酬が多額であったり、交際費や福利厚生費が大きかったりするなど、企業経営に余裕を感じさせる経費内容が多く含まれていることがあります。加えて、減価償却費は費用ですが現金が流出しないので、営業赤字~当期純損失であっても、現金は増えていることもあります。

 こうした企業は、いざという時は上記のような余裕経費を圧縮することにより、正常な水準の利益を確保できることもあります。

しかし、意外と一度あげた生活水準を下げるのは簡単ではありません。

事例3

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当期純利益はプラスです。が、ここだけ見ても意味がありませんね。

②一過性の収益である特別利益が17百万円も計上されており、利益の水準を大きく押し上げています。

③経常利益は▲10百万円であり経常損失です。企業の収益力はよくないのかもしれません。

④営業利益においても損失がでています。また、営業外費用に分類されている支払利息5百万円の支払負担が重く、営業段階の損失に拍車をかけているようです。

事例3 図示

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 本事例は、業績が悪化しつつある企業にみられる損益計算書で、会社のスタンスして当期純利益(黒字着地)を維持していこうとする企業を例に挙げました。

 当期純利益を確保できており税金も支払っていますが、表面を美しく整えているだけで、本当に問題なのは営業活動で利益を得られていないことにあります。利益率の高い商品への注力や、人件費はじめ固定費の削減など、収益構造の改善が必要かもしれません。

まとめ

3つの特徴的な損益計算書を例に挙げましたが、損益計算書の分析の基本について掴めましたでしょうか。実際の損益計算書は複雑で、事例1~3以外にもさまざまな要素を複合的に勘案しながら見ていく必要があります。

 

最終的な利益など大きな数字にとらわれることなく、その原因となる各勘定科目の内容をしかりと追っていく必要がありますね。

 

 

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損益計算書の読み方

今回は損益計算書について、仕組みと読み方について取り上げます。

 
前提

 損益計算書は一定期間の経営成績を表す財務諸表です。企業における経営成績とは、収益はいくらか支出はいくらかということで、その差額が儲けとなります。

 財務諸表における収益とは、資産の増加をもたらす要因の取引のことです。たとえば、「売上高」という収益があれば、その対価として「現金」やツケとして後から払う「売掛金」という資産が増えます。

 対して費用は、資産の減少をもたらす要因の取引のことです。例えば、「給与」という費用があれば、「現金」が会社から従業員に支払われることで減少します。

 そして、収益と費用の差額が利益になります。収入が30万円、費用が20万円の場合は利益は10万円になります。

 

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「収益」と「利益」では表している意味が全く違いますね。

利益は収益と収益の差額なので、収益と費用を足すと収益と一致します。

損益計算書の仕組み

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 損益計算書を構成する収益・費用・利益について、簿記の基本ルールに則って並べました。左側の図について、なぜ収益が右側、費用が左側にあるの?と思われる方は下記のページをご参照ください。 

 

左図のとおり、収益と費用の差額として利益が求められます。そして、費用と利益を足したものが収益と一致しています。なお、実際の企業活動においては、利益に対して法人税等が発生します。

 企業活動における収益や費用は非常に多くの種類があります、例えば収益では、商品の売上、土地を貸したときの賃料、預金に対する受取利息などです。そうしたな収益をいい加減に並べてしまうと、読み手である利害関係者にとって有効な資料となりません。

 そこで右図のように、収益と費用をあるルールに従ってグループに整理して記載するとともに各グループ毎に利益を算出し記載しています。そうすることで、企業活動のレベルに応じた収益と費用並びに利益を把握することができるため、企業活動を適正に見極めることができます。

構成する企業活動グループ

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 収益と費用を整理したグループを色分けしました。

 青色は、企業の営業活動から生じる収益と費用で、売上や売上原価、人件費などの販売費や管理費が該当します。営業サイクルに関連する収益や費用です。

 赤色は、企業の営業活動以外から生じる収益と費用で、利息の受払や為替による損益などが該当します。

 緑色の特別損益は、いわゆる臨時的な損益が該当し、一過性のある収益や費用が該当します。

特別「損失」(費用と呼ばない)、特別「利益」(収益と呼ばない)であることにご注意ください。

実際のレイアウト

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 費用収益のグループを理解したところで、実際の損益計算書のレイアウトに変えました。ここでは、収益を青色、費用を赤色、利益を白色で表しています。 先ほどの費用収益グループで捉えると、損益計算書においては、上から営業損益、営業外損益特別損益グループの順に並んでいますね。

 売上総利益いわゆる粗利は、売上高から売上原価を引いたモノで、その商品やサービスそのものの収益力とみることができます。原価100円のもので、120円で売れる商品や、200円で売れる商品があるのは、商品(やサービス)そのものが消費者にとって魅力的であり収益力があるためです。そうした収益力が売上総利益(粗利益)に現れています。

  営業損益では、商品そのものの収益力を示す売上総利益から、「販売費および一般管理費(略して販管費)」という、人件費や経費を差し引くことにより求められます。この段階までで企業の営業活動に関する損益は全てでそろっているため、企業の営業成績を表しているといえるでしょう。

 経常利益は、営業利益に営業外で発生した支払利息などを反映させたものです。営業外費用のなかでも借入に付随する「支払利息」は、企業活動においては必須なモノですので、この利息負担を考慮に入れた利益を最重視している金融機関も多いでしょう。経常利益は企業の正常収益力を表しているといえます。

 表の一番下、期間中に発生した全ての損益の差額が純利益です。税金を引いたものが当期純利益です。

売上原価の算出

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  ここで売上総利益を求めるために必要な売上原価について簡単にご紹介します。ポイントは、その期間中に売れた商品分だけを売上原価にするということです。

 企業活動を順に追っていきます。まず期首には、前期の在庫が手元あるはずです。その状態から、期中の営業活動において「商品を仕入れて在庫が増え、商品の販売により在庫が減る」を繰り返し、期末になると、企業は売れ残りである手元商品の在庫の量を数えます。すると、期首の在庫と期中の仕入れた分の合計額から、期末に残った在庫を差し引くことで、売り上げた分だけの金額を把握できます、それが売上原価です。

売上原価の考え方(発展)

 仕入をすると費用として支払をするので当然現金が流出します。しかし、仕入した商品が期末に売れ残っていた場合は、現金が流出しているにもかかわらず売上原価として当期の費用になることなく、商品という「資産」として貸借対照表にストックされてしまいます。 そうした商品は、将来にわたって販売リスクが生じますし、時間の経過とともに市場ニーズは変化し、その価値は次第に減少していきます。これが、費用が資産となり先延ばしされている状況です。

 加えて、期末に売れ残りである在庫が大きければ大きいほど売上原価は小さくなって売上総利益がよく見えてしまいます。これは粉飾決算によくある方法で期末在庫を実態よりも大きくすることで売上原価の金額を圧縮して、売上総利益を大きくみせてしまいます。

(こうした状況を見極めるために、売上原価率の推移はきちんと過去と比較しながら確認する必要があります。)

 売上原価の算出(製造業)

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 製造業は製造を行う工程がありますので、商品には「完成品」と「仕掛品(つくりかけ品)」の2つの項目があることがポイントです。期首には、完成品在庫と仕掛品在庫が存在することイメージしてください。

 ①(右図)企業は、材料費、人件費などの労務費、その他経費をかけることで、製品を製造していきます。当期は50百万円の費用が発生しました。(材料費は、先ほどの売上原価の考え方と同様当期に使用した分だけを費用とします。)

 ②(左下段)期首には前期からの仕掛品(作りかけ品)が20百万円あります。そこに当期の50百万円の費用を加算します。・・・そして期末に仕掛品の在庫を数えると40百万円ありました。つまり、当期に完成した製品は、20+50-40=30百万円です。

 ③(左中段)前期からの製品(売れ残り)が20百万円ありました。そして、当期に完成した製品は30百万円です。・・・そして期末に在庫を数えると、40百万円分ありました。つまり、当期に売上した製品は20+50-40=30百万円です、これが売上原価になります。

 ④(左上段)売上高から売上原価を引くことにより、売上総利益が算出できました。

まとめ

後半の売上原価の算出方法については簿記を学習していないと難しいので、何となく掴めていれば十分でしょう。本記事では下記のスライドを理解できれば十分です。

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損益計算書について何となく理解できたところで、さっそく分析に進みましょう。

 

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貸借対照表の分析 その①

貸借対照表の大まかな意味がわかったところで、さっそく簡単な分析をしてみて、更に慣れていきましょう。

細かい数字が無く全体を見やすくしているので、初学者の方もゆっくりみていってね。

貸借対照表の比較と分析 その1

より良好な企業の貸借対照表はどちらでしょうか? 

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数字の横にある「▲」はマイナスを表しています。また、財務諸表の単位は数字で表した時のカンマの位置で、千円単位、百万円単位で記載されることが多いです、慣れていきましょう。

 

こちらは、資産・負債・純資産の意味を理解できていれば簡単ですね。

正解は①です。

純資産は貸方(右側)に記載するのがルールなのでマイナス表示となっていますが、資産と負債の大きさを合わせると下図のようになります。

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こうしてみると②は資産より負債の金額が大きいことがわかりやすく、また①は資産が負債より大きい②より優れていることが明確です。このような、①の状態を『資産超過』、②の状態を『債務超過』といいます。

  • 資産超過:資産が負債よりも大きく、純資産がプラスの状態
  • 債務超過:資産が負債よりも小さく、純資産がマイナスの状態

 

貸借対照表の比較と分析 その2

より良好な企業の貸借対照表はどちらでしょうか? 

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純資産は両方とも同じですが、流動(資産・負債)と固定(資産・負債)のバランスがそれぞれ違いますね。流動(資産・負債)と固定(資産・負債)の意味を思い出してみます。

正解は①です。何となく①の方がよさそうだと感じられると思いますが、理由まで考えてみましょう。

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企業経営は複雑であるため一社の財務諸表を読むだけでは絶対的な評価が難しく、財務分析では業界平均などの数値も参考にします。しかしいくつかの指標では絶対値ででその企業の良し悪しを判定できるため、とっかかりとしては悪くないでしょう。

企業の安全性を判定する指標

貸借対照表の数値だけで、その企業における短期的・長期的な財務の安全性を測定することができます。この指標のいいところは、参考数値が示されているため、一社の貸借対照表があれば分析できることです。

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 総資本のうち、返済が必要な資本(他人資本=負債)と、返済が必要ない自分の資本(自己資本=純資産)の占める割合によって長期的な財務安全性を見ることができます。当然、安全性の観点からは自己資本が大きい方が望ましいため、自己資本比率は高い方が良好な水準といえます。無借金の優良企業であれば50%以上の水準を有する企業もみられます。

 正常営業循環を構成する科目または短期的(1年以内)に現金化されるものである流動資産と、短期的に現金の支払や費用化される流動資産のバランスに着目した、短期支払能力を測定する考え方。もちろん、流動資産の方が大きい方がいいため、流動比率は高い方が良好な数値といえます。なお、流動比率の理想値は200%流動資産は流動負債の2倍ある状態)が理想的な財政状態と言われており、企業同士を比較しなくても評価が可能です。

当座資産 = 流動資産 - 棚卸資産

流動比率で使用する流動資産の内訳に注目すると、「棚卸資産」は実際に商品や製品の買い手が購入するまでは現金化されないというという状況であるのに対して、「受取手形」や「売掛金」は既に現金となることが確定している(商品やサービスの提供は完了しており対価となる代金を受領する権利が既に発生している)ことを考慮すると、流動資産の中でも、現金回収の可能性の高さや早さに差があることがわかると思います。

当座比率では、流動資産から棚卸資産を除いた当座資産を使用することで、より忠実に短期支払能力(流動負債を当座資産でまかなう)を測定することができる指標です。なお、当座比率の理想値は100%(当座資産と流動負債は同額)です。

上記2つの指標は業種によって大きく違いがありますので、業界平均と比べるのもいいでしょう。

  • 固定比率 = 固定資産 / 自己資本 × 100 (%)

 財務状態のうち、固定資産と自己資本に着目し、会社の固定資産の調達源泉が、返済不要である自己資金でどれほど賄われているかをみる指標で、長期的な財務安全性を判断できます。

貸借対照表における資産は調達した資本の運用状態を示していました。中でも固定資産は、資金が長期的に拘束される上に現金の回収に時間を要するため、返済の必要な他人資本による調達よりも自己資金による調達の方が望ましいという考え方です。理想地は100%以下ですが、クリアするのは大変でしょう。

資金の運用形態である固定資産ほど、資本の調達源泉のうち自己資本固定負債(長期負債)でどれほど賄えているか、を測定するための指標です。

固定比率が100%を下回るように固定資産のすべてを自己資本で調達するのはとても難しいので、自己資本固定負債で調達してあればよい、という固定比率を緩和した考え方です。固定負債は返済が必要となる資本の調達源泉ですが返済が長期にわたるため、固定資産と対応させることはそれほどおかしくありません。

④固定比率が100%以下であっても、⑤固定長期適合率が100%以下であればまずまずと考えてよいでしょう。

 

貸借対照表の比較と分析 その2 解答

それでは、先ほどの問題について、上記5つの指標を使ってそれぞれの貸借対照表を分析してみましょう。(流動資産の内訳を示しておらず当座資産の金額が不明であるため、当座比率は算出できません。

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 すると指標の数値は以上のような結果になります。長期的な財務安全性を判断する1・4・5、短期支払能力を判断する1、すべて企業①の貸借対照表の方が優れていることが、根拠とともにわかりましたね。

まとめ

絶対値で企業を評価できる指標もありますので、ぜひ頭に入れておいてさっと確認できるといいですね。

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細かく計算をしなくても、これなら大まかに企業分析ができそうです。

以上の指標は貸借対照表のみを使用して分析するものですし、この指標だけで企業を評価できるほど企業分析は単純ではありません。しかし、このような基本的な指標を足掛かりとして資産と負債のバランスなどの考え方を身につけていくことが大切です。応用の利く実力を備えていきましょう!

貸借対照表の読み方

貸借対照表について基本的な全体像からご紹介しています。最下部に本記事の「まとめ」の図がありますので、時間がない方はそちらをどうぞ。

 

貸借対照表とは?

会社法金融商品取引法において作成が求められている企業の決算書類のひとつで、バランス・シート(B/S)ともいいます。

貸借対照表では、企業の一時点における財政状態を表しています。一時点とは、企業が定める決算日時点のことです。

貸借対照表(B/S)を構成する3つのグループ

 貸借対照表は、それぞれの勘定科目(経営に関わる色々なモノを帳簿に記録するときの名前)の内容に従って、3つのグループにまとめられています。そのグループの単位を〝部〝といい、3つのグループそれぞれを『資産の部』『負債の部』『純資産の部』といいます。

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貸借対照表には沢山の勘定科目が記載されていますが、まずは全体をみて基本をしっかり理解してきましょう。

ゆっくりお願いします。

 

資産・負債・純資産の関係

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すべての資産のことを「総資産」、それに対応して負債と純資産の合計を「総資本」といいます。現代の会計ルールで使われている「複式簿記」は、借方(左側)と貸方(右側)の合計額が一致するように記録することで正確性を保つ方法ですので、「総資産」と「総資本」は一致します。また別の視点でいえば、「資産」と「負債」の差額を「純資産」としている(資産-負債=純資産)ため、負債と純資産の合計額が資産となるのはあたりまえです。

おうちの家計で例えると、預金が50万円、車のローンが20万円あるとすれば、純資産は30万円となる。資産から負債を差し引いた純粋な部分が純資産ですね。

 

『資産の部』『負債の部』『純資産』が表していること

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  • 『純資産の部』

会社の設立した際に最初に用意するお金のことを「資本金」といい、現在では資本金1円から企業を設立できます。そうした資本金は純資産の部に記載されています。また、企業活動の結果、決算期を通じて利益を獲得できた場合は、純資産の部のうち、「繰越利益剰余金」として利益を積み重ねて数字を大きくしていきます。

まとめると、株主が出資した会社の資本金や過去からの利益の積み重ねによる資本は、誰にも返済する必要がないことから自己資本といいます。一般的に、企業にとって自己資本が大きいほど余裕があるといえます。

  • 『負債の部』

企業活動を行うためには自己資本だけではどうしても不十分になることが多く、その際には金融機関からの借入や社債の発行などを行って外部からお金を手に入れる必要があります。自分のものではない資本のことを他人資本いいます。

このように貸借対照表の貸方(右側)では、自分資金かそれとも他人資金かという、資金の調達源泉を表しています。

返済が必要な他人資本は少ない方が絶対にいいですよね?

企業の財務における安全性や健全性の観点でいえばその通りですが、絶対とはいえません。極端な話、確実に利益が出る取引がある場合なら借入をして出来るだけ大規模に取引した方がもたらす利益も大きくなるので営利活動としては望ましいですよね。

  • 『資産の部』

名前のとおり資産が記載されているのですが、いわゆる現金預金や不動産だけが資産とは限りません。企業には様々な活動がありますが、自己資本他人資本により調達した資金の支出先(投資先)を「資産」として記載されています。よって、資金を投入して購入した商品在庫や原材料、ソフトウエアや権利、会社が購入する投資信託など、あらゆるものが含まれます。

貸借対照表の貸方(左側)は、資金の運用形態を表しているといえます。ここで、貸借対照表の資金の流れを図示しておきましょう。

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経営にとって重要な資産にお金が運用されていないと心配ですね。この企業の調達源泉と運用形態のバランスを表しているからバランスシート(B/S)ということがよくわかります。

『資産の部』『負債の部』『純資産』の中身

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それぞれの部の中にある、もうひとつ小さなグループを図示しました。資産と負債には、「流動」「固定」「繰延」という小さなグループがあります。また純資産の部については基本的には『株主資本』という名前グループに集約されていますので一緒に覚えておいてください。

 

流動は動きやすそうな名前で固定は動きにくそうですね。動かせるものと動かせないもので区別するでのしょうか?建物は動かないけど商品は動かせますし。

近からず遠からず・・・。動きといっても資産そのものの動きではなく、資産にまつわる現金の動きなんです。

 

1年基準(ワンイヤー・ルール)と正常営業循環基準

「資産の部」は資金の運用形態を、「負債の部」は資金の調達源泉を表していました。そして、資金の運用先である「資産」はその後にお金を回収していく、一方の資金の調達方法であった「負債」はその後、費用としてお金が出ていくことになります。

このような資金の動きに着目した基準によって判定し、「資産の部」「負債の部」のうち短期的なものを「流動」、長期的なものを「固定(繰延)」というように分けています。

その基準とは、「正常営業循環基準と「②ワンイヤールール(1年基準)」です。流れとしては、①正常営業循環基準を優先して適用し、これに該当しないものは②ワンイヤールールで判定していきます。

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「①正常営業循環基準」とは、正常な営業サイクルの中にある資産・負債を、流動資産・流動負債とするという考え方です。

「②ワンイヤールール」は1年基準ともいうように、貸借対照表の作成日から1年以内に現金・費用化する資産・負債を、流動資産・流動負債とするという考え方です。資産であれば現金化、負債であれば費用化です。

よって、流動(資産・負債)と固定(資産・負債)は以下のように整理できます。

 なお、正常営業循環基準に該当するものは営業のサイクルの中にあるので、基本的に1年以内で現金化や費用化の動きがあるものともいえます。

 

 

正常営業循環についての詳しい説明は省略しましたが、企業活動や財務を理解するためには重要なポイントですので、別の記事で詳しくご紹介します。

まとめ

貸借対照表は、企業をとりまく資金の調達源泉と運用形態のバランス(財政状態)を表していること、また各部の内訳について、下の2図を理解できればバッチリです。

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繰り返し読むと新しい発見があります。

貸借対照表の基本ですが大切な考え方なので、是非とも理解してくださいね。

 

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財務諸表について

企業が開示している財務諸表にはどのような役割があるのでしょうか。そして、そもそも財務諸表とははなんでしょうか。基本からじっくり理解をしていきましょう。

財務諸表の役割について

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企業が活動を行うにあたって関わっている、株主、債権者(銀行)、取引先(企業や一般消費者、調達元、販売先)、地域社会など、取り巻く様々な関係者が存在し、それを利害関係者といいます。それぞれの利害関係者は、企業と様々な取引などの関係をもつ上で意思決定や判断を繰り返し行っています。例えば、投資家であれば企業の成長性を見極めたいですし、消費者であれば信頼できる会社から商品を購入するでしょう。

そこで、企業は財務諸表を作成し、一定期間の財政状態や経営成績などの会計情報を開示することを通じて、利害関係者に適切な判断をしてもらいます。

なお、利害関係者毎に企業との関わり合い方が異なるように、それぞれの利害関係者が求める情報自体が異なることもよくあるので、財務諸表では各方面の利害関係者に気を遣いながら、有用な情報を提供できるようなルールが定められています。

 

特に債権者と投資家については企業に対して求めることや視点が異なる場合も多く、問題が起こることもあります。。

財務諸表とは?

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 企業に求められる財務諸表の代表的なものです。上場会社等では、利害関係者が多く存在し社会への影響も異なるため、開示を求められる財務諸表のレベルが異なります。

この中でも、

は、財務三表と呼ばれるほど重要ですので、まずはこちらをしっかりと理解していきましょう。中小企業においてはキャッシュフロー計算書は作成しませんが、会社にとっても、財務を勉強する方々にとっても、キャッシュフロー(現金の動き)と資金繰りについては、常に念頭に置いておく必要があります。

 

 計算書類をおうちの家計で言い換えるならば、

給料日前日時点で、手元に3万円、貯金の預金48万円をもっている。自動車ローン20万円もある。モノとしては、車や家具などをもっている。

今月の給料日から給料日前日までで、給料が16万円入ったけど、食費が10万円、水道光熱費が3万円、教育費が3万円、趣味に2万円を支出した。今月は2万円の赤字。

  • 株主資本等変動計算書(一定期間の純資産の増減)

今月は2万円の赤字だったから、給料日前日時点の貯金は48万円となり、先月よりも2万円も貯金が減った。

現金の動きは損益計算書とほとんど同じだけれど、支出のうち趣味の2万円はカードで支払をしたから、その2万円分の現金はまだ財布に残っている。

 

分かりやすいような分かりにくいような・・・。

それはさておき、財務諸表の勉強は始まったばかりです。それぞれについての本質を、基礎からゆっくり理解することで、テクニックではない、応用の利く知識と実力を身につけていきましょう。

 

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