中小企業診断士の「ハチでもわかる企業と財務」

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損益計算書の分析 その①

前記事で損益計算書の仕組みについて簡単に理解したところで、さっそく分析編に入りましょう。損益計算書の基本について不安のある方は過去記事をご参照ください。

 

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各段階における利益の意味

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過去の記事において、各段階の利益についてご説明をしました。損益計算書の分析においては、決算書を3期分ほど用意して時系列に沿って比較することが重要ですが、まずは1期分の損益計算書の分析から始めましょう

利益の図示

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 先ほど例示した損益計算書を横向きのグラフにして図示しました。差額としての利益の推移をイメージでき、どの企業活動段階の費用が利益水準に大きく影響を与えているか、視覚的にわかりやすいと思います。

 この決算書は、経営成績良好な企業における損益計算書の基本パターンですので、是非とも念頭に置いてください。また、企業分析のポイントとしては、最終的な利益や損失の数値を鵜呑みにしないようにすることです。

事例1

損益計算書は下から読んでみてください。

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当期純利益は▲1(マイナス1)ですので、当期純「損失」です。「赤字着地」とも言います。1億円も売上高があるのですから▲100万円程度の赤字は収支トントンともいえますが、大抵の企業は月次の決算書である「試算表」を作成して財務状況を管理把握しているので、ちょっとしたミスで純損失になってしまうことは考えにくいでしょう。

②特別損失をみると、46百万円の損失が計上されています。一過性の費用が多額に計上されているので「?」と気づく必要があります。

③経常利益を確認すると、45百万円の黒字です。営業外費用である利息が5百万円も発生しているにもかかわらず経常利益は十分で、企業の正常収益力は良好です。

④営業利益をみると、販管費などの固定費を差し引いた状態で充分に利益を確保できています。営業利益を生み出す営業活動は良好であることがわかります。

(⑤売上総利益は単年度で判断しにくく、業界平均や複数年度との比較により判断します)

事例1 図示

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 最終的な利益である当期純利益が赤字(当期純損失)であっても、企業の営業成績はじめ収益力は問題ないという例として、なるべく税金の支払の回避を目指す、節税対策に熱心な企業の損益計算書を挙げました

 経常利益まで充分に確保できていますが、一過性の節税対策の特別損失によって、利益を圧縮しているというイメージがつかめますでしょうか。このように、最終的な利益or損失の水準をそのまま受け取ることなく、各企業活動段階の利益を分析する必要があります。

事例2

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①純損益は赤字ですが、ここから掘り下げていきます。

②営業外費用が0なので特段の利息負担はありませんが、経常利益がマイナスです。

③営業利益もマイナスです。営業段階以下ではほとんど経費の動きがありません。

 ここで営業損益から純損益まですべて赤字だからといって経営成績が悪いと判断してはいけません。「販管費(販売費及び一般管理費)」は様々な経費の集合体ですので、明細によって内訳を確認することにより、営業損失をもたらす原因を把握する必要があります。

事例2 図示

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 本事例は、節税のために個人事業主から法人成りした企業など、比較的に小規模な企業を例に挙げました。

 販売費及び一般管理費の負担が大きく営業損失がでているため、一見すると経営状態がよくない企業にも見えます。しかしながら、販管費の内容を掘り下げていくと、役員報酬が多額であったり、交際費や福利厚生費が大きかったりするなど、企業経営に余裕を感じさせる経費内容が多く含まれていることがあります。加えて、減価償却費は費用ですが現金が流出しないので、営業赤字~当期純損失であっても、現金は増えていることもあります。

 こうした企業は、いざという時は上記のような余裕経費を圧縮することにより、正常な水準の利益を確保できることもあります。

しかし、意外と一度あげた生活水準を下げるのは簡単ではありません。

事例3

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当期純利益はプラスです。が、ここだけ見ても意味がありませんね。

②一過性の収益である特別利益が17百万円も計上されており、利益の水準を大きく押し上げています。

③経常利益は▲10百万円であり経常損失です。企業の収益力はよくないのかもしれません。

④営業利益においても損失がでています。また、営業外費用に分類されている支払利息5百万円の支払負担が重く、営業段階の損失に拍車をかけているようです。

事例3 図示

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 本事例は、業績が悪化しつつある企業にみられる損益計算書で、会社のスタンスして当期純利益(黒字着地)を維持していこうとする企業を例に挙げました。

 当期純利益を確保できており税金も支払っていますが、表面を美しく整えているだけで、本当に問題なのは営業活動で利益を得られていないことにあります。利益率の高い商品への注力や、人件費はじめ固定費の削減など、収益構造の改善が必要かもしれません。

まとめ

3つの特徴的な損益計算書を例に挙げましたが、損益計算書の分析の基本について掴めましたでしょうか。実際の損益計算書は複雑で、事例1~3以外にもさまざまな要素を複合的に勘案しながら見ていく必要があります。

 

最終的な利益など大きな数字にとらわれることなく、その原因となる各勘定科目の内容をしかりと追っていく必要がありますね。

 

 

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